ドイツの画家たちの見た隣国

執筆者:大野ゆり子2007年5月号

 二人のうら若い女性が、青空のもと、仲良さそうに寄り添って腰掛けている。一人は、月桂樹の冠をつけた黒髪の乙女、その彼女の右手をしっかりと両手で握りしめる、もう一人の金髪の女性。 何も説明がなければ、二人の仲の良い姉妹の肖像か、ギリシャ神話の中の親密な二人の女神かのように見えるこの絵は、ドイツ人の画家が一八三五年に描いた、「ゲルマニアとイタリア」という、ドイツ、イタリアの友情を象徴した絵である。 左側の黒髪の女性がイタリア。目を伏せがちな畏まった女性の様子は、明らかに、ラファエロの描く受胎告知の場面の聖母マリアを彷彿とさせる。右の金髪の女性がドイツの象徴である。二人の背景には、それぞれ、山間にイタリアらしい赤い屋根の教会、聳え立つゴシックの尖塔とデューラーの故郷ニュルンベルクを思わせる中世的なドイツの町並みが広がっている。 ゲーテがイタリアへの熱い思いから、ワイマールからまっしぐらに南へと馬車を駆り立てたことからも判るように、ドイツ人のイタリアへの憧れは、この時代に始まったものではないが、自分たちのアイデンティティを模索していたドイツの画家たちの一部が、「ラファエロ」の象徴するイタリアと「デューラー」が象徴するドイツが手を取り合うことに美の完成を見ていたことが、ここから窺える。

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