慎重居士をかなぐり捨てた「森ビルの弟」

執筆者:杜耕次2007年6月号

いまさらのように携帯電話事業の支援に打って出た森トラスト。相次いで大がかりな投資を繰り広げる総帥・森章社長の成算は――。

 携帯電話事業への新規参入を目指していた「アイピーモバイル」(東京・千代田区)。資金調達が難航して今年春の予定だったデータ通信サービス開始のメドが立たず、四月八日には日本経済新聞朝刊一面で「新規参入を断念し、割り当てを受けていた携帯用周波数を近く総務省に返上する」と報じられた会社である。

 その報道から二日後の四月十日、同社社長の杉村五男は記者会見を開き、「資金面で安心できる状況になった」と参入準備の継続を表明した。断念の意向が覆ったのは新たなスポンサーの登場が理由。支援の手を差し伸べたのは不動産デベロッパーの森トラストである。

 杉村によると、森トラストとは三月中旬に交渉を始め、四月九日に杉村の出身母体で従来の筆頭株主でもあるマルチメディア総合研究所が保有する全株式(六九・二三%)を森トラストが取得することで合意に達したという。ただ、総務省幹部でさえ「森トラストの件は九日夜に初めて聞いた」と寝耳に水だった様子。

 さらに「首都圏の国道十六号線の内側での携帯サービス参入だけで五百億―六百億円は必要」(通信事業関係者)とされるにもかかわらず、これまでアイピーモバイルが集めたのは五十億円程度。「いくら“何でも来い”の森トラストでも、こんな事業にまともに手を出すはずがない。何かウラがあるのでは……」と大手銀行幹部は推測する。

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