言うは易く行なうは難き「価値観外交」

執筆者:田中明彦2007年7月号

 外交と価値を結びつける発言が増えている。安倍首相みずから、価値観を共有する国々との関係を重視する外交を語り、麻生外相も「価値の外交」とか「自由と繁栄の弧」を論じている。最近では、「価値観外交」に関する議員の会合もできたという。 もちろん、是非善悪のみならず、損得もまた人の価値観に依存するのであるから、いかなる外交も価値の外交である。金正日もサダム・フセインも、中国もみなそれぞれの価値観にもとづいて外交を行なっている。 しかし、今の日本で、外交に価値を結びつけて議論するとき、そこで「価値」といわれているものは、どうも「人類普遍の価値」とみなされるような価値のことをいっているようである。「自由・民主・人権・法の支配」などが、しばしば言及されるからである。 かつては、日本には日本なりの価値観があるとか、アジアにはアジア的な価値観がある、などという発言が多く聞かれた時代もあった。自由だとか民主といっても、日本におけるそれや、アジアにおけるそれは、おのずからアメリカのそれとは違うのだなどという発言である。今、主張されている発言は、どうもそうではない。人類全体に共通する(あるいは共通させなければならない)価値としての自由、民主、人権、法の支配が語られているのである。

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