“国際標準製造マシン”EUが世界を牛耳る

執筆者:山根光太郎2007年7月号

EUは加盟国間の利害調整でとてつもない交渉力を培ってきた。いまそれが、国際的なルール作りでの競争力と化し――。 今年一月十日。まだ正月気分が抜け切らない東京・霞が関の官庁街を、ブリュッセル発の一本のニュースが熱風となって駆け抜けた。「欧州連合(EU)は、地球温暖化の原因となるガスの排出量を、二〇二〇年までに一九九〇年比で二〇%以上削減する」 EUの執行機関である欧州委員会が発表した「欧州エネルギー戦略」。その長大な文書の中には、温暖化ガス削減の新しい数値目標が、高らかに宣言されていた。「悔しいが、緒戦ではEUに先を越された」。日本の経済産業省の幹部は、そう告白する。温暖化防止をめぐる先進国間の交渉で、まずEUが先頭に躍り出たのは事実である。 焦点は「京都議定書」以降のルール作りだ。十年前に採択された同議定書は、二〇〇八年に拘束期間が始まり二〇一二年に期限が切れる。一九九〇年を基準とし、期間内に二酸化炭素やメタンなどの温暖化ガスを日本が六%、EUは八%削減することを約束している。 当初は米国も七%の目標を課されていたが、二〇〇一年になってブッシュ政権が「米産業界のコスト負担が大きすぎる」として議定書からの離脱を決めた。しかし、最大の温暖化ガス排出国である米国抜きの合意では実効性がない。だからこそ、ポスト京都議定書、つまり二〇一三年以降にどのような枠組みを作るかが、焦眉の課題となっていたのだ。

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