「総連ビル事件」の埋もれた見取り図

執筆者:伊藤博敏2007年8月号

一兆四千億円近い税金で救済され、それでも本部を手放すまいと画策。朝鮮総連に関わる事件は、真相からズレた絵解きがなされた。「詐欺」という事件構図を想定した者は、朝鮮総連中央本部の売却問題を取材する“素人”の記者のなかにも“プロ”の法曹関係者のなかにもいなかった。 詐欺事件には「被害者」が必要である。六月二十八日に東京地検特捜部が逮捕したのは、元公安調査庁長官の緒方重威容疑者、不動産会社「三正」元社長の満井忠男容疑者、旧安田信託銀行の元行員で売却計画を編み出した河江浩司容疑者の三人。彼らが共謀し、弱みにつけこんで架空の売買を持ちかけ、総連側を欺いて中央本部の土地・建物を手放させた――。特捜部が描いた事件の構図に沿えば、「被害者」は総連側、とりわけ売買を担当した許宗萬責任副議長ということになる。本国への送金で無理を重ね 総連が困っていたのは事実だ。実質的な「金融部門」だった朝銀信用組合の経営破綻に伴い、昨年来、全国四十七カ所に置く総連の地方本部に対して、債権を引き継いだ整理回収機構(RCC)による差し押さえ、競売開始の動きが表面化。それを免れるため、「(総連と意を通じているとみられる)落札業者の代金未納や倒産により失効、再入札」といった“時間稼ぎ”や「競売後の総連系企業による買い戻し」などの“工作”が続いている。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。