イギリスを驚愕させた「医者たちのテロリズム」

執筆者:竹田いさみ2007年8月号

 英国のロンドンとグラスゴーで六月末、連続テロ事件が発生した。ブラウン政権誕生直後であったことから、“誰が政権をとろうとも、我々はテロを継続して行なう”という、イスラム過激派の強いメッセージと受け止められる。新政権下の英国社会に揺さぶりをかけるには充分であったろう。テロ計画の多発性、自動車爆弾テロの形態が、国際テロ組織アルカイダの常套的な手法と重なることから、実行犯はアルカイダ系とみるのが今のところ妥当である。ただ、今回のテロ事件は、これまで英国で発生したテロおよびテロ未遂事件と比較して、目新しい点が幾つか挙げられる。 第一に、実行犯として七―八名の医師・医療関係者グループが関与していたことである。外国人であっても、医師がテロリストになったという点で、社会に大きな衝撃を与えた。これらの医師は、慢性的な医師不足に悩む英国が、窮余の策で導入した公的医療サービスの枠を利用して英国に合法的に入国し、就職していた。彼らが英国で優遇されていたかというと、必ずしもそうではなかったから、英国社会に対する失望感や不満を募らせた結果、テロ活動に加わったという可能性は充分にある。 英国のイスラム教徒は各地のモスク(イスラム寺院)を拠点に、民族や国籍でグループを形成し、職業別にネットワークを作っている。アフガニスタンのパシュトゥン人が集うモスク、パキスタン出身者が出入りするモスク、教師や技術者が顔を出すモスクなど、モスクごとに特色がある。それに加えて、最近ではパソコン上のウェブ世界でテロリスト・ネットワークが広がりつつある。

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