東京兜町。“シマ”と呼ばれる一帯の中央にそびえ立つ東京証券取引所の堅牢なビルには、よそ者を簡単に寄せ付けぬ物々しさがある。今、その業務の根幹を成す上場部から、有能な人材がわれ先にと抜け出す異常事態が起きている。 上場部は上場企業への情報開示の指導や上場廃止基準の制定・執行を担う。部員は約五十人。東証の花形ともいえるこの部を過去二年足らずの間に四人の若手幹部が去った。上場部ナンバー2を含めいずれも三十代から四十代初めの課長職。転じた先はフジテレビが二人、東証一部上場企業が一人、そしてベンチャーを起こす者と様々。行き先はともかく、問題は彼らがみな、この数年の資本市場の自主規制強化の流れを引っ張ってきた中心メンバーだったということだ。 西武鉄道やカネボウに始まる粉飾企業の上場廃止、法律に先んじて導入した買収防衛策指針や内部統制ルール――。経団連など産業界の強い反対にも抗し、東証が市場の信頼を守った事例と評価されたが、東証経営陣には「やり過ぎ」と映ったらしい。担当者の中には、出る杭よろしく子会社や他部署への異動を余儀なくされた者もいた。「新しい試みはご法度。前例踏襲の官僚体質が一番評価される」。東証のあちこちで、こんな声が聞こえる。市場を真ん中で支えるべき東証で一体なにが起こっているのか。

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