マレーシアでは、連日、モンゴル人の美人モデル殺害事件に関する裁判が大きく報じられている。被告席に坐るのはナジブ副首相兼国防相の側近ラザク・バギンダと、要人警護隊に所属する二名の警護官だ。 被害者アルタンチュヤ・シャリブは、元モデルで通訳の肩書きももち、香港などを拠点に国際的に活躍してきた。昨年十月、クアラルンプール郊外で、爆弾で粉々になった遺骨の一部が発見され、犯人としてバギンダらが逮捕された。彼女と親密な関係だったバギンダには妻と娘があり、別れ話を切り出した。逆上したシャリブは、バギンダの私邸やオフィスに親族や私立探偵を伴って何度も押しかけ、慰謝料五十万ドルを要求。思い余ったバギンダが要人警護官を呼んで“処理”を依頼したというのが事件のあらましだ。 実は事件の背後には、マレーシアとロシアの武器取引をめぐる裏金問題がある。マレーシアは二〇〇三年、ロシア製スホイ30MKM戦闘機十八機を総額九億ドルで購入する契約を結び、今年末までに十二機が納入される予定だ。その際、ナジブから対露交渉を委ねられたのがバギンダだった。 ロシア企業から多額の裏金がマレーシア側に渡ったとされ、この裏金交渉を通訳していたのが殺害されたシャリブ。彼女はナジブ副首相との親密な関係も取沙汰されているが、バギンダとの結婚を真剣に考え、そのためイスラム教への改宗も済ませていた。殺害される直前、バギンダ宅に押しかけた彼女は、玄関前で「世界にすべてをバラしてやる」と叫んだそうだが、それが裏金問題を指していると考えれば筋が通る。次期首相候補のナジブ副首相を巻き込んだスキャンダルは闇が深い。

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