腕や足を剥き出しにした男たちが競うスポーツを女性がスタジアムで観戦することは、一九七九年のイスラム革命以降のイランでは原則許されない。だが、自宅でテレビ観戦することには何の規制もない。クローズアップで男の素肌が大写しになるにもかかわらず。「イランは矛盾だらけだ」と苦笑するジャファル・パナヒ監督の新作「オフサイド・ガールズ」は、そんな現代イランの矛盾をユーモラスに描く。サッカーワールドカップ出場がかかるアジア予選でのイラン対バーレーン戦をどうしてもスタジアムで観戦したい少女らは男装してスタジアムに潜り込む。果たしてそこで何が起きるのか……。映画はフィクションだが、ヒントになったのは現実の出来事だ。 一昨年のワールドカップ・アジア予選で、日本対イラン戦の終了後、観客と兵士のもみ合いから人々が将棋倒しになり、六人が死亡した。だが、報道写真には五人しか写っていなかったため、一人は男装の女性だったとの噂が広がった。その少し前には、監督自身、家族でサッカー観戦に行き、入場を阻まれた長女がスタジアム周囲の露店から中に潜り込み、家族と合流して試合を見るという経験もした。 ベルリン映画祭やカンヌ映画祭、ベネチア映画祭などで数々の賞に輝き、国際的に高い評価を受けるパナヒ監督だが、イラン当局からは「要注意人物」扱いで、映画の検閲を所管する文化・イスラム指導省から撮影許可が下りない。そのため、助監督を名目上の監督にし、サッカーを見る男の子の映画という嘘の申請で撮影許可を得た。そして、実際に対バーレーン戦が行なわれるなか、テヘランのアザディ・スタジアムで撮影を敢行。撮影完了間際になって監督が実はパナヒ氏であることが当局に知られ、撮影中止と撮影済み映像の提出が命令されたが、これには従わなかったという。

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