自分のことから書き出すのは気が引けるのだが、順序としてこれが適当だと判断した。一九九二年に私は当時、読売新聞社が発行していた月刊誌「THISis読売」に連載中、四月号に「マフィア化するJR東日本労組」と題する見開きのコラムを載せた。JRが分割・民営化されて五年目、東日本労組の中の革マル派がキバをむき出し、社内に恐怖政治が敷かれ始めた――との趣旨である。ある取締役がすっ飛んできて「そんな事実は全くない」とすごい剣幕で怒り、次の号で取り消せ、というのである。今回、西岡研介氏の著書『マングローブ』で判明したのだが、その取締役こそ松田昌士副社長(当時)と並んでJR東労組の松崎明委員長の“子分”のような人物だった。 改革派三人組の一人だった松田氏はその後社長、会長になるが、周囲の度重なる忠告にも拘らず、最後まで松崎氏と切れなかった。その理由も本書で明らかになるが、一言でいえば家族への脅迫である。それから逃れるには辞職することしかなかったろう。 私は記事についてJR東日本労組から名誉毀損で訴えられ何年か裁判を闘ったが、こういう記事を証明する難しさはニュース・ソースを明かせないということだ。その困難を熟知しているからこそ、私は西岡氏の忍耐と事件を積み上げていって全体の構図を浮び上がらせる力量に感嘆するのである。

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