中国残留孤児の「尊厳」を守る日本の責務

執筆者:草生亜紀子2007年9月号

ようやく支援策ができたが、実施はこれから。壮絶な人生を生き抜いた人たちには、穏やかな老後を送る権利がある。「日本に帰ってきて良かったと心から思います」――中国残留孤児集団訴訟原告団全国連絡会代表の池田澄江さん(六二)は七月十日、官邸で面談した安倍晋三首相に笑顔で語った。前日、自民・公明両党の与党プロジェクトチームがまとめた中国残留孤児に対する新たな支援策を孤児側が受け入れた。そして、全国十五地裁で国に賠償を求めて起こしていた集団訴訟の終結を決断。面談はそれを受けて行なわれたものだった。 ほぼ二年間進展のなかった新たな支援策作りが今年に入って急に動き出したのは、支持率が急落するなか「温かみ」をアピールできる明るい話題を必要とした安倍政権の選挙対策だった色彩も強いが、七割近くが生活保護に頼るという「圧倒的貧困」(弁護団)に喘ぐ孤児側は、このチャンスをつかむことにした。 中国残留孤児とは、第二次世界大戦前から戦争中にかけて旧満州(中国東北部)に渡った開拓団の子弟のうち、ソ連参戦に伴う混乱の中で親と共に日本に引き揚げることができず、現地に残された当時十三歳以下の子供を指す。肉親探しの訪日調査が始まったのは、日中が国交を回復した一九七二年から九年後の八一年のことで、永住帰国して現在日本に暮らす孤児は約二千五百人。平均年齢は六十八歳。その九割近い二千二百人が集団訴訟に参加している。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。