『生物と無生物のあいだ』とは随分と堅いタイトルだ。堅いどころか、これ以上はないというくらい無味乾燥なタイトルとさえ言えるかもしれない。頁を開き、プロローグを読み始めても印象はさして変わらない。タイトルが語っているように、生物と無生物を区別するのは何か、つまり“生命とは何か”という堅い問題を扱っていることが改めてわかるだけだ。 そして型のごとく、ワトソンとクリックによって解明されたDNAの二重ラセン構造と、その構造が端的に示している細胞の自己複製システムについて簡単に触れている。ホントに型のごとくだ。続いて、生命体とはミクロなパーツからなる精巧な分子機械に過ぎないという分子生物学的な考え方の紹介。これも型のごとくだ。 ところが、プロローグの後半、著者自らの研究体験を語るあたりからトーンが微妙に変わる。ミクロなパーツからなる精巧な分子機械である生命体から特定の遺伝子を取り除けば必ず異常が生じるはずだ。精巧な機械の部品がなくなるわけだから。で、マウスから特定の遺伝子を取り除いてみた。ところが、マウスには何の異常も生じない。この意外な実験結果を紹介した上で、生命体には分子機械という考えでは説明しようのないダイナミズムがあるに違いない、このダイナミズムを通してこそ生物と無生物の区別を知ることができるのではないかと著者は言い、プロローグは終わる。

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