九月六日の謎めいた事件が今もなお尾を引いている。この日の朝、イスラエル空軍機がシリアの領空を侵犯、なんらかの攻撃を行なって去っていった。明らかな事実はこれだけである。ここに憶測が加わり、諜報情報のリークが断続的になされ、ホワイトハウス内の政治闘争の重要課題にもなりかけている。 イスラエルによるシリアへの攻撃というのは、それだけで大問題に発展しかねない事件である。イスラエルとシリアは、イスラエルが一九六七年以来占領しているゴラン高原をめぐって争っており、戦争状態は終結していない。最近もゴラン高原を挟んで相互に部隊の動きや兵力増強をめぐって緊張の高まりがあった。 しかし今回の攻撃はまったく正反対の、シリア・トルコ国境付近で行なわれている。イスラエル軍機がシリアの背後の奥深くを衝き、トルコの領空も侵犯していったことになる。イスラエルとシリアとの全面的な戦争につながりかねない危険な事件であると同時に、あまりに大胆すぎてあっけにとられるような行動である。よほどの重大な目標があったと推測されるのは当然だろう。 だが、イスラエル政府は沈黙を続けた。イスラエル政府が攻撃を行なった事実を公式に認めたのは十月二日になってからである。その際も詳細には一切言及していない。

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