ADRは「医療不信」払拭の決め手か

執筆者:清水健二2007年11月号

高まりに高まった患者側の医療不信。このままではお互いに不幸だ。国が導入を目ざす二つの仕組みは、果たして解決策に?「病院内の調査には限界がある。ましてや組織的な隠蔽が行なわれれば、患者側には手も足も出ない」 二〇〇一年三月、東京女子医科大学病院(東京都新宿区)が行なった心臓手術で次女・明香さん(当時十二歳)を亡くした平柳利明さん(五七)は、当時をそう振り返る。明香さんは人工心肺装置のトラブルで脳障害に陥ったが、執刀医は「手術自体はうまくいった」と遺族に事故を隠し、カルテの改竄にも手を染めた。 内部告発を受けた平柳さんが調査を求め、病院が事故や改竄をようやく認めたのは、手術から七カ月後。それからも、上層部の隠蔽の指示の有無について再調査を約束させたが、回答はなく、電話の取り次ぎすら拒まれるようになったという。結局、この事故は刑事事件になり、東京女子医大が史上初めて特定機能病院(高度医療の提供や研究開発の承認を受けた病院)の指定を取り消される事態に発展した。 医療事故における患者側の医療機関に対する不信は、深刻さを増している。裁判所に持ち込まれた医事訴訟の件数は、一九九六年から〇六年までの十年間で五百七十五件から九百十二件へと一・六倍に増えた(ピークは〇四年の千百十件)。患者側の告発や被害届が発端になる警察の立件件数も右肩上がりで、年間百件に届こうとしている。

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