回顧録の出版で、アラン・グリーンスパンはすでに揺るぎない伝説的名声の輝きをさらに増そうとしたに違いない。だが、“The Age of Turbulence”(『波乱の時代』=邦訳は十一月中旬、日本経済新聞出版社刊)は、その意味においてはプラスよりもマイナスに働いている。 一九九〇年代後半、史上類を見ない好景気が長らく続いた米国経済を取り仕切ったFRB(米連邦準備制度理事会)議長として広く好感を持たれているグリーンスパンだが、今回ばかりはタイミングを誤った。米国のサブプライムローン危機が世界の金融市場に伝播し、悪影響を及ぼしていた九月に回顧録を上梓したことで、その内容は過去の正当化として懐疑の目を向けられることになったからだ。 経済学の本は無味乾燥になりがちだが、この本はとっつきやすく刺激的だ。なにしろ、FRB時代に仕えた歴代の大統領に対して辛辣かつ率直なのだ。彼の描くリチャード・ニクソンは酔っぱらいのように悪態をつく男だし、根っからの共和党員であるグリーンスパンが一番ウマがあったのは民主党のビル・クリントンだったということも認めている。 となれば、本書が大いに人気を博しているのも不思議なことではない。『波乱の時代』はベストセラー・ランキングでノンフィクション部門のトップに躍り出た。版元が支払った八百五十万ドル(約九億七千万円)ものアドバンス(前渡し印税)は無駄にはならなかった。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。