ずるいぞシンガポール航空

執筆者:竹田いさみ2007年12月号

 世界最大の超大型旅客機エアバスA380が、十月二十五日、シンガポールからオーストラリアへ鳴り物入りで初の商業飛行を行なった。その第一号機を導入したのが、世界一の航空会社を目指すシンガポール航空だ。ファーストクラスを超えるスイートクラスを新設し、個室空間にキングサイズ並みの座席兼ベッドを用意。何かと前評判の悪いA380の巨大さを積極的に売り物にし、イメージの好転を狙う。さらに日刊紙『ストレーツ・タイムズ』とタイアップし、A380を紹介した大型特集を組み、日本でも全国紙に大々的な広告を打ち出した。 十月二十五日付各紙に掲載された全面広告には、「贅沢さ、広さ、快適さ、そのすべてのスタンダードを塗り替える歴史的なフライト」とある。十一月下旬に東アジアサミット(首脳会議)開催を控え、シンガポールはこの一カ月間、A380就航と合わせて、自身の売り込みに躍起となるに違いない。 淡路島ほどの都市国家シンガポールには、国内線がない。世界地図を手に取れば、マレーシアとインドネシアに挟まれた米粒のような点が、シンガポールである。中国の福建省と広東省から流れてきた南洋華僑が、艱難辛苦の末に建国した都市国家には、経済的に繁栄するための戦略、メカニズム、仕掛けが溢れている。その一つがシンガポール航空だ。いまやアジアを、そして世界を代表する航空会社に成長した。常に最新鋭機を導入。東南アジアの拠点空港として二十四時間稼動するチャンギ空港を整備し、中継貿易港の伝統を生かした乗り継ぎ便のフライト発着は、世界でも屈指だ。乗客の利便性と快適性を追求したビジネス客用ラウンジを最も早い段階から取り入れ、競合他社がお手本にしたほどだ。

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