女性の胸元を飾るビルマ軍政の利権

執筆者:徳岡孝夫2007年12月号

 明治三十一年に横浜・山手の居留地に生まれ、八十三歳でニューヨークに死んだポール・C・ブルーム翁の、私は晩年の友の一人だった。彼のことを書き出せば長くなる。東京・青山に隠棲していた蒐書家で、その外国人による幕末・維新期の日本関係書五千冊は、横浜開港資料館に譲られ、同館の基本図書になったとだけ記しておく。 話は、ブルーム翁の少年時代のことである。両親はパーティに出かけて遅く帰宅した。翌朝に日本人阿媽に片付けさせるつもりで、翁の母はドレスは脱いだまま、身に付けた宝石類もすべて食堂のダイニングテーブル上に並べたままにして寝た。そしてその夜、泥棒が入った。 宝石類は、すべて消え失せた。その中にハート型をしたルビーのブローチがあった。スイス時計輸入商である夫からの、結婚の贈り物だった。 舞台は回って、数年後のニューヨークになる。もう自動車があった。ブルーム一家はニューヨークの北のサラトガ・スプリングスへ遊びに出かけた。鉱泉のある保養地で、競馬場もある。朝早く出たので、途中のホテルの食堂で朝食をとった。 突然、翁の母が興奮した。夫の腕をつかんで、激しく揺する。「あなた、私のブローチだわ。行って、どこで買ったか聞いて下さい。どこで買いましたかって」

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