日本の過てるFTA戦略が招いた「逆転現象」

執筆者:山根光太郎2008年1月号

FTAを使うと損をする。そんな奇妙な事態が発生している。政府は何をやっていたのか! 産業界が怒るのも当然だ。「貿易大国ニッポンの通商政策は死んでしまったのか」。ある総合電機メーカーの幹部が、吐き捨てるように語った。小泉政権以来、日本政府が鳴り物入りで推し進めて来たFTA(自由貿易協定)戦略。とりわけアジア各国との交渉が、ことごとく国内の産業界の期待に反する結果に終わっているからだ。 タイの首都バンコク。二〇〇七年十一月一日に発効したばかりの日本とのFTAをめぐって、現地の日系企業の間で奇妙な噂が囁かれている。十二月二十三日に実施されるタイ総選挙の結果次第では、タイ政府が「日タイFTA」を破棄するのではないかという観測である。 根も葉も無いデマだと一笑に付すことはできない。中国に後れること約二年。「日タイFTA」は交渉に三年以上もの歳月をかけた苦心の産物であるにもかかわらず、タイ政府側からは、日本を重要な貿易相手国として尊重し、協定内容を遵守するという熱意が全く感じられない、といった声を耳にする。 鉄鋼製品など日本からの重要な輸出品に対し、水際の通関の際にFTAで合意した関税率を守らず高い税率を要求する。あるいは、意図的とも思えるような形で通関手続きを遅延させる。貿易の現場では、そんな“事件”が頻発しているようだ。タイ政府には、日タイFTAを真面目に守る気がないのではないか……。

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