欧州連合(EU)が伝統のワイン産業の改革に乗り出している。まず二〇〇八年に五億一千万ユーロ(約八百二十億円)をスペイン、フランス、イタリアなどの農家に補助し、安いワインにしかならないぶどうの品種変更を促す。さらに、ぶどう畑の減反のほか、砂糖を加えてアルコール度を上げる独特の製法の禁止、ラベルの簡素化などを検討している。余剰気味の安いワインの生産を減らすと同時に、生産者にワンランク上のワインを造らせ、国際競争力を高めようという狙いだ。 世界のワイン生産量二百八十億リットルのうち、六割を欧州産が占める。だが、ここ数年、ワイン消費が急速に伸びている米国や英国では、価格が手ごろで品質が良い南米産やオーストラリア産など「新世界」のワインに押され、仏伊産の輸出は伸び悩んでいる。しかも、仏伊では若者のワイン離れが進んでおり、国内でもだぶついている状況だ。EUは余剰ワインを工業用アルコールに転用できるよう支援してきたが、「改革が必要」(フィッシャーボエル欧州委員)な状況になっていた。 だが、今回の改革は欧州のワイン文化の否定につながる面が強く、「改革は新世界ワイン寄り」との批判も出ている。補糖は、ドイツや東欧など日照時間が短く、ぶどうの糖度が低い産地における伝統的な手法だ。またフランスには畑の斜面の具合、日当たり、土壌、苗木など「テロワール(栽培地)」がワインの品質、ランクを決めるという文化があるが、ラベルの簡素化は、そのランク付け自体を否定することになる。一方、広大な土地で気候の変動が少なく、製法のハイテク化が進んでいる「新世界」では、品質が均一になりやすいため、そもそも栽培地はあまり重要視されない。

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