北京オリンピックの壮大な矛盾

執筆者:伊藤正2008年2月号

「最大規模、最も成功した五輪」にすべく中国当局は邁進する。だが、最大規模となるのは、華々しさと現実の「矛盾」かもしれない。あまりに脆弱な社会基盤の上に、北京五輪が築かれつつある。[北京発]今夏、史上最多の二百五の国・地域が参加して開かれる北京五輪のスローガンは「一つの世界、一つの夢」。二〇〇五年六月、二十一万本の応募作品の中から選ばれたスローガンの発表式で、北京五輪組織委員会の劉淇主席(北京市党書記)は「中国人民と世界各国人民が一家になり、手を携えて崇高な理想を実現することを表し、平和で美しい世界を築くために貢献する十三億人民の心の声を表現している」と述べた。 スローガンとはいえ、現実とかけ離れすぎている。グローバル化時代の激烈な経済・金融競争は、富の偏在を顕著にし、大国は資源獲得に奔走、世界規模の環境破壊をもたらした。その主要なプレーヤーの一つは、過去五年、二ケタ成長を維持する中国にほかならない。 昨年夏、国営中央テレビの人気キャスターの白岩松氏は、北京五輪の最大の課題として「中国に対する信用の回復」を挙げた。白氏は中国がホストとして公平、無私で五輪に臨み、文明大国の風格を示すことが重要とし、メダル数で「世界一」を目指す「熱情」を批判する。

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