東海旅客鉄道(JR東海)は昨年末、自己負担で東京と中京圏を結ぶリニア新幹線の建設を進める方針を明らかにした。路線を二百九十キロメートルと想定、その場合の総事業費を五兆一千億円と試算した。「安定配当を維持しながら自社で投資費用を賄える」(松本正之社長)としているが、市場では「長期債務が膨らむうえ、用地買収や工期がずれ込み建設費がさらに増える可能性がある」と、JR東海株は年初来安値を更新し続けた。 二〇二五年のリニア開業はJR東海の悲願。特に「国鉄民営化三羽ガラス」として名を馳せ、「プライドは三羽ガラスの中で最も高い」とされる葛西敬之会長には焦りもある。他の二人、JR東日本の松田昌士氏とJR西日本の井出正敬氏はともに一線を退き、JR東海の内外から「いつまでも会長の椅子にとどまっていては後進が育たない」(JR東日本幹部)との声も出ている。ゆえに「会長在任中にリニア建設のめどをつけたい」(JR東海関係者)というのが、自己負担でのリニア建設を突如打ち出した真相のようだ。 だが、ハードルは高い。実際に着工するには全国新幹線鉄道整備法に基づく整備計画をまとめ、国土交通相の承認を得る必要があるが、国交省は「ルート選定などの問題で地元自治体との調整に余計な労力を使いたくない」と消極的。強引にリニア自前建設を唱えれば唱えるほど葛西氏の求心力は衰えるが、それを誰も批判できないのが今のJR東海の実態だ。

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