次期総選挙まで一年余りに迫った二〇〇八年のインドでは、国民の痛みを伴う経済改革が軒並み停滞し、代わりに選挙を意識した農民や都市貧困層、零細商工業者への手厚い対策が実施されそうだ。昨年末に投開票があったグジャラート、ヒマチャルプラデシュ両州議会選で相次ぎ敗北した、中央与党・国民会議派率いる連立政権は、今後、巻き返しを図って一段と選挙シフトを鮮明にすると見られる。「新年度(〇八年度)予算では、苦しい業界の救済を優先する」――。年明け早々の一月二日、チダムバラム財務相は通貨ルピー高で青息吐息の繊維業界など輸出産業に対する配慮を強調した。八千万人以上が従事する繊維業界は、もちろん政党にとっての大票田だ。 インド政府はまた、多重債務農民の自殺を食い止めるため、焦げ付いたローンの棒引きを含む総額三千億ルピー(約九千億円)の救済パッケージを導入する見通し。貧困層向け住宅ローンの金利補助なども検討中だ。シン首相率いる連立政権は再び「コモン・ピープル(一般大衆)のための政治」へと立ち戻った。 こうした政策の一方、経済界が期待する民営化や外資導入などの経済政策は、連立を支える左翼政党を刺激しかねないため、当面、凍結または先送りされる公算が大きい。政府は有権者受けを狙って大規模な減税に言及しており、これを補う課税ベースの拡大や新税の導入が濃厚だ。大企業や外資系企業ががっちりと税金を取られるという構造はしばらく続くだろう。

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