「合格」だった台湾「蔡英文」の訪米

執筆者:野嶋剛2015年6月11日

 手のひらを返す、というのは、こういうことを言うのだろう。
 台湾・民進党の総統選候補者である蔡英文氏がこのほど訪米し、かつて台湾の総統候補では1度もなかったとされる国務省ビルに招き入れられるなど、当の民進党の予想を超える「歓待」をワシントンから受けた。
 4年前に同じく総統選候補として蔡氏が訪米したときの「冷遇」を思うと、同一人物に対する対応とは思えないほどだが、このドライすぎる超大国の対応の変化に一喜一憂させられるのは別に台湾に限ったことではない。

 

「陳水扁でも馬英九でもない」

 前回総統選前の2011年、蔡氏は「台湾コンセンサス」「和して同せず」などの政策を片手に訪米したが、米側から「曖昧さ」を指摘され、陳水扁総統時代から引きずった民進党への不信感を拭うことはできなかった。米側の匿名の「高官」からメディアを通して蔡氏への不満が表明され、投票直前にも米国が台湾へのビザ免除を発表するなど、米国の馬英九総統への肩入れはあからさま。馬英九総統とかなりいいところまで競り合っていた蔡氏が最後に失速してしまった理由の1つに「米国ファクター」があったのは、台湾社会の共通認識である。
 今回、蔡氏は直前の『ウォール・ストリート・ジャーナル』への寄稿【Taiwan Can Build on U.S. Ties,WSJ,June 1】やシンクタンクでの演説で、自らの両岸政策である「現状維持」について丁寧に説明していた。そのうえで、陳水扁政権のように予測不能で挑発的な政策は取らず、同時に馬英九政権のように過度に親中にならず、米国など民主主義国との協力関係を強化するという、「陳水扁でも馬英九でもない」というポジションを巧みにアピールした。総じて蔡氏の政策説明の表現力は明らかに4年前に比べて向上しており、学者くささ、官僚くささの「脱臭」は相当進んだと感じさせた。

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