中国指導層の新キーワード「不信邪」

執筆者:野嶋剛2015年6月18日

 5月末にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアログ)で、前日にカーター米国防長官から南シナ海の埋め立ての即時中止を求められたことに応え、中国の孫建国・人民解放軍副総参謀長が「中国和中国军队历来不怕鬼、不信邪、服理不服霸、信理不信邪(中国と中国の軍隊はもとより『不信邪』であり、理に服し、覇業に服さず、利を信じ、『不信邪』である)」と語っているのをテレビで見て、おやっと思った。

「不信邪(bu xin xie)」は「私は迷わない」「揺るがない」という意味で、「蛮勇」「無鉄砲」「怖いものはない」といったニュアンスがある。日本語へ正確に翻訳することが非常に難しい類いの言葉だ。そのまま訳せば「邪なことを信じない」、つまり「迷信は持たない」ということになるが、実際はそういう意味で用いられるわけではなく、「何があっても我が道を行く」「決して揺るがない」のような決意を込める文脈で使われることが多い。

 日本のメディアはこの孫建国発言について、訳しにくいこともあるのか「不信邪」の部分の引用をしていなかったが、いくら解放軍とはいえ、国を代表して世界に向かってコメントする政府高官の発言にしてはいささかそぐわない感があった。

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