ロンドンに学ぶ観光戦略

執筆者:吉崎達彦2015年6月27日

 諸般の事情があって早めの夏休みを取り、6月のロンドンを観光旅行してきた。ポンドが高くて円が安いので、物価高を全身で受け止めることになってしまったが、まことに良い季節をエンジョイできた。冬が長くて暗い英国では、この時期の到来を皆が待ち望んでいる。日本のような湿気はないし、空は抜けるように青いのだ。

ロンドンのビッグベン。どうです、いい天気でしょ。

 なるほど「6月の花嫁」という言葉は、こういう季節のことを言っていたのかと得心がいった。以前から、梅雨のじめじめした時期の日本で、「ジューンブライド」を持て囃すのはどこか変だなと思っていた。一説によればこの言葉は、日本のホテルや式場が毎年、挙式が少なくなるこの時期を乗り切るために、「欧州では6月の花嫁は幸福になるんですって!」と喧伝したのが発端であったのだそうだ。

 ロンドンを散歩しているうちに、子どもの頃に繰り返し読んだ『ボートの三人男』が、初夏もしくは晩春のテームズ河を美しく描写していたことを思い出した。19世紀末に書かれた抱腹絶倒のユーモア小説、テームズ河畔の歴史や観光事情を紹介した名紀行文、あるいは緩急自在のエッセイと言えようか。今でいう「プチ鬱」になった3人の英国紳士が、1匹の犬をお供に気晴らしのボート遊びに出かけ、各地で騒動を起こす。丸谷才一の翻訳(中公文庫版)も手伝って、百年経っても魅力を失わない不思議な読み物である。

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