ギリシャの「チェ・ゲバラ」とも、「チャベス」とも呼ばれるアレクシス・チプラス首相。思想的には、明らかに欧州連合(EU)より、ロシアに近い。
 多数の旧共産党員らを抱える与党「急進左派連合」。2年前このグループは北大西洋条約機構(NATO)脱退を主張していたが、それ以後NATOへの敵対姿勢をトーンダウンして、現実的側面も見せている。
 当面ギリシャは、財政破綻とユーロ圏離脱の危機を回避したが、前途はなお多難だ。
 かつて「NATOの柔らかい脇腹」などと呼ばれたギリシャは、西側の前線に位置し、東西冷戦時代から東西の情報機関が相まみえる現場となってきた。
 現在は、金融支援をめぐる厳しい交渉の裏で、旧ソ連国家保安委員会(KGB)の対外部門を引き継いだロシア対外情報局(SVR)やロシア軍参謀本部情報総局(GRU)がギリシャでの活動を増強していると伝えられる。プーチン大統領は一体、何を狙っているのだろうか。

親ロの主要閣僚

 2015年1月の総選挙で急進左派連合が政権に就き、一部のNATO諸国は「ギリシャがロシアの掌中に帰する恐れ」があると慌てた。チプラス首相のほか、主要閣僚の外相、国防相らがロシアと非常に緊密な関係にあることが知られていたからだ。
 ニコス・コジアス外相やパノス・カメノス国防相は、双方の思想の同質性のせいか、プーチン・ロシア大統領側近らとの関係構築に努めてきた。ピレウス大学教授時代から民族主義的立場を強めてきたコジアス氏は2013年、ロシアの著名な民族主義派哲学者、アレクサンドル・ドゥギン氏を大学の行事に招いた。その際ドゥギン氏はギリシャとロシアを結びつける東方正教会の役割を称賛したという。
 ドゥギン氏はプーチン大統領を取り巻く治安機関出身者の理論的支柱のようだ。このほか、フランスの民族主義右派「国民戦線」、オーストリアの自由党など極右政党との接近を図っており、EUの団結を崩す方向を模索しているとみていい。

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