遊民経済学のフロンティアは「お葬式」

執筆者:吉崎達彦2015年8月22日

 最近の『サザエさん』では、今でも編集者のノリスケさんが、作家の伊佐坂先生の自宅へ原稿を取りに通っているのだろうか。伊佐坂先生がメールで出版社に原稿を送るようになったら、ノリスケさんはお隣の磯野家に立ち寄る用事がなくなるので、物語の展開上は具合が悪いかもしれない。しかるに今でも原稿は万年筆で書き、ネットはおろかFAXも使わず、原稿が出来たら編集者に取りに来させるという大先生は、確実に絶滅危惧種への道をひた走っているはずである。

 筆者は20代の頃、会社で最初に配属された広報室で、社内報や広報誌の編集担当をやっていた。ノリスケさんのような仕事ももちろんやった。思い出深いのは、イラストレーターの種村国夫さんのところへ通ったことである。ほら、週刊文春でちょっとエッチな絵を描いてるあの人のことですよ。

筆者の仕事場。お友だち価格で譲ってもらった種村画伯の絵を飾っています。

 電車で出かけて、駅前のロイヤルホストから「今着きました」とご自宅に電話を入れる。当時のことだから、もちろん公衆電話である。すると、締め切りのイラストはまだ出来上がっておらず、種村さんはそれから悠々と仕事に取り掛かり、筆者が焦れた頃になってようやく店に現れる。そして「ごめん、ごめーん」などというやり取りが続くのであるが、昭和の頃の仕事はそんな風にまことにのどかなものであった。

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