9月8日に告示される自民党総裁選で安倍晋三首相が再選されるのは間違いない情勢だ。安全保障関連法案をはじめ沖縄の基地問題、中国経済の失速に伴う世界経済の混乱など行く手には内外の難問が山積しているが、自民党内政局という側面だけからみれば、安倍政権はきわめて安定的に歩みを進めている。

「勝てるわけない」

 自民党二階派は8月9日、埼玉県秩父市で開いた研修会で、党総裁選で現職の安倍首相(党総裁)の推薦を決定した。その夜、記者団に「党内から、負ける覚悟で安倍首相と総裁選を戦うという対抗馬は出て来ないんでしょうか」と尋ねられた二階俊博氏は、次のように答えて記者団を煙に巻いた。
「勝てるわけないんだから、負ける覚悟がなかったら総裁の対抗馬にはなれないだろ」
 もちろんこれは、負ける覚悟で出馬する議員がいるという意味ではなく、単に質問を混ぜっ返しているにすぎない。ただ、この会話で分かるのは、「負ける覚悟」「勝てるわけない」という言葉に象徴されるように、記者も二階氏も、安倍首相を倒せる候補者はいないことを自明の理として話している点である。実際、客観的に見て今の自民党内に安倍首相に勝利できそうな人物は見当たらない。
 その後、野田聖子前総務会長が総裁選出馬に意欲をみせて準備を進めたという例外はあったものの、自民党内の大勢は二階氏と同じ見方だった。二階派に続いて、安倍首相とは距離があるとみられる石原派や岸田派も相次いで総裁選での安倍首相支持に傾き、党内7派閥すべての足並みがそろった。安倍首相は党内的には、向かうところ敵なしといった勢いで、敵を寄せ付けない強さを誇っているのだ。

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