京都議定書の“有効期限”は二〇一二年まで。新たな国際合意作りの主導権を握るため、EUは二重三重に仕掛けを施している。「悪くはなかったよ」――。欧州で温暖化防止ビジネスを手がける友人がそう言って含み笑いをした。 この一月末、スイスで開かれた世界経済フォーラム(ダボス会議)で福田康夫首相が提言した、「ポスト京都」に向けた日本の政策に対する感想だ。福田演説の目玉は温暖化ガス削減の「国別総量目標」だが、肝心の日本の目標値は示さずじまい。「悪くはなかった」のはもちろんそのことではなく、途上国向けに百億ドル(約一兆円)を、環境・エネルギー分野の研究開発に三百億ドルをそれぞれ投じるとの約束を指す。「日本はカネを出してくれさえすればいい。ルールはオレたちEU(欧州連合)が作る」というわけか。 福田演説の三日前、世界中の温暖化防止ビジネス関係者の注目を集めていたのは、EU本部のあるベルギー・ブリュッセルだった。欧州委員会が二〇一三年以降の「ポスト京都戦略」案を公表したためだ。 京都議定書の約束期間(先進国が温暖化ガスの排出削減=日本は六%でEUは八%=を約束した期間)は今年から二〇一二年まで。だが、EUはそれを待たず、〇五年から主要な温暖化ガスである二酸化炭素の排出を削減するための排出権取引(EU-ETS)を実施してきた。議定書に定めのない二〇一三年からの「ポスト京都」でも一九九〇年比二〇%(他の先進国が参加するなら三〇%)の削減目標を公言している。いちはやく実績を積み上げて発言力を確保し、基準づくりを進めることで、温暖化防止ビジネスの主導権を握ろうというわけだ。

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