またしてもインド・ビジネスサークルを落胆させる事態となった。インド政府は8月末、産業・インフラプロジェクトによる土地収用で地権者への手厚い保障を見直す「土地収用法改正案」の早期成立を断念した。モディ首相は8月30日にラジオで演説し、同法改正案に暫定的な効力を与えてきた大統領令を更新しないと表明。同法は翌31日に失効した。7~8月に開いたいわゆる「モンスーン国会」は、結局、モディ政権の2大改革法案ともいえる「土地収用法改正案」と「GST(モノとサービスの統合税)法案」のいずれも可決できずに閉会したわけである。

 

難航する「農民に優しい」法の改正

 現行の2013年土地収用法は、前政権を率いたソニア・ガンディー国民会議派総裁の肝いりで制定され、収用価格を公示地価の2~4倍とし、事業主体によって住民の70~80%の賛成を義務付けるなど、農民ら地権者に優しく、企業や公共事業体には土地コストの高騰をもたらす厳しい内容となっていた。

 高度成長を目指す一連の経済改革「モディノミクス」を掲げたモディ政権はまず、新規プロジェクトの妨げとなっているこの土地収用法の改正に着手。70~80%という「同意取得義務条項」に例外措置を設け、社会影響アセスメントの実施義務を軽減するなどの緩和措置を盛り込んだ改正案を国会に上程した。だが、上下両院の「ねじれ」もあって、改正案は野党から「農民の利益を損ねる悪法」などと激しい反対を浴び、与党連合の身内からもアンチ農民色を懸念する声が出ていた。

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