朝鮮半島の非武装地帯(DMZ)で8月4日に発生した地雷爆発に端を発した韓国と北朝鮮の緊張は交戦直前まで行ったが、43時間にわたる板門店での高位級会談で軍事衝突を回避し、対話局面に転換した。これを受け、朝鮮中央通信は8月28日に、朝鮮労働党中央軍事委員会拡大会議が開かれたと報じた。金正恩(キム・ジョンウン)第1書記は「瀬戸際にまで至った交戦直前で再び取り戻した平穏は決してテーブルの上で得たものではなく、偉大なわが党が育んできた自衛的核抑止力を中枢とする無尽強大な軍事力とわが党の周りに一心団結した無敵の千万の隊伍があるので成し遂げられた」と述べ、核抑止力を含めた軍事力が対話を実現したと主張した。
 また、同通信は同拡大会議で「党中央軍事委員会の一部の委員を解任および任命し、組織問題が取り扱われた」と報じ、党中央軍事委員の一部が解任され、交代させられたことが明らかになった。しかし、具体的に誰が解任され、誰が任命されたかは不明だ。

なお不安定な北朝鮮指導部

北朝鮮・寧辺の核施設で、車両の動きが活発化している再処理施設。8月22日に撮影[米ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院の米韓研究所提供](C)時事

 地雷爆発から始まる緊張激化に対して引責的な人事が行われたとの見方が出た。しかし、本稿執筆時点では、黄炳瑞(ファン・ビョンソ)軍総政治局長、朴永植(パク・ヨンシク)人民武力部長、李永吉(リ・ヨンギル)総参謀長の軍トップ3は健在である。対南工作の責任者である金英哲(キム・ヨンチョル)偵察総局長の処遇に関心が集まっている。
 その一方で、今回の人事は、玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)前人民武力部長や辺仁善(ピョン・インソン)前軍総参謀部作戦局長の粛清にともなう補充人事を行い、党中央軍事委員会を再整備しただけという見方も根強い。
 南北関係は板門店での「8.25合意」によって、対話局面に転換された。しかし、北朝鮮は9月14日には国家宇宙開発局長が、同15日には原子力研究院長が朝鮮中央通信記者の質問に答える形で談話を出し、人工衛星打ち上げや核実験の可能性を示唆した。南北対話や日朝交渉がこのまま続くのかどうかも不透明だ。
 北朝鮮は、米朝関係に展望が見えず、中朝関係は冷却状態が続いており、南北関係に国際的な孤立打開の道を模索しているようにみえる。一方で、国際的孤立の一層の深化を覚悟で、人工衛星打ち上げなどに向かう可能性もある。
 そうした中で、北朝鮮指導部はまだ不安定なようにみえる。玄永哲前人民武力部長の粛清は北朝鮮内部にも大きな衝撃を与えている。南北間の緊張激化や、中国の「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70周年」の記念式典をめぐる外交戦の陰に隠れているが、北朝鮮指導部の内部の状況を検証してみたい。

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