アフリカの社会編成:部族は未開の象徴か?

執筆者:平野克己2015年10月5日

 アフリカ研究では、少なくとも日本の学界では「部族」という表現を慎むのが不文律になっている。「アフリカについてのみ民族ではなく部族という用語が使われるのは差別だ」という批判が、かつてアフリカ人研究者から提起され、それに共感する研究者が増えて、国家をもたない社会集団を表すものとして「エスニック・グループ」という術語が一気に広がった(ただし、アフリカ現地ではtribeがなんの躊躇も感じさせずに汎用されている)。

 

アフリカ社会の特性

 人類はアフリカで発祥した。なぜアフリカでしか人類は生まれなかったのかについては20世紀に著しく研究が進み、いまも精力的に進められている。人類はそのアフリカを出て地球上ほぼすべての地域に拡散することで、こんにちの大繁栄に至ったわけである。きわめて多様な環境に適応することで、単一種で70億という数にまで増殖した。ゆえに、人類は個体数が多いというだけではなく、社会の数がとんでもなく多い。そして各々の社会は、異なる環境で異なる生活形態を構築し、異なる言語と文化をもつ。創世記にあるバベルの塔の呪いである。

 1800を超えると推定されるアフリカの言語拡散は、世界でも稀に見る現象である。なかには話者人口が数百人にとどまる言語の乱立を支えてきたのが、アフリカの部族的社会編成だ。アフリカにもかつて中央集権的な大国家が誕生したが、これら国家は痕跡を残すことなく、やがて再び小部族社会に解体されていったらしい。地味に恵まれず、表水資源も乏しいアフリカでは、土地資源の支配を軸とする封建国家が生まれなかった。他の地域でみられた壮絶な征服戦、殲滅戦は、どうやらアフリカでは起きなかったのである。土地にさして価値がおかれなかったため国境をもたなかったアフリカの国家では、その支配を嫌う人は、そこから出ていけばよかった。アフリカ研究ではこのような行動を「足による投票(vote by foot)」という。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。