国民党の総統候補が、洪秀柱・立法院副院長から、朱立倫・党主席に切り替えられた。一時は徹底抗戦の構えを見せた洪氏だが、党内の大物がすべて「洪おろし」に同意するなど完全に外堀を埋められてしまってはなす術なく、10月17日の臨時党大会では候補資格の取り消しの決議の前に勝敗を悟って1人、会場を立ち去った。総統選挙まで3カ月という時点での候補者の交代は、台湾の総統選で一度も起きたことがない異常事態であるが、問題は、この交代で国民党が何を目指し、選挙情勢がどう変わるかである。

 

立法院の多数は「過去30年」国民党

 今回の候補者の交代劇から見えてくるのは、国民党はもはや総統選挙の敗北を事実上受け入れ、同じ日(来年1月16日)に行われる国会に相当する立法院の立法委員選挙を救うことに全力を挙げることを決意した、ということだと考えられる。

 台湾の各種世論調査では、総統選では、民進党の蔡英文・党主席に、洪氏はダブルスコアからトリプルスコアの差をつけられていた。この状況は決して洪氏1人の責任というわけではなく、国民党全体に対する不信任という色合いが濃い。より中国との関係強化に前のめりの洪氏から、中間路線を取りやすい朱氏に候補が代わっても、3カ月でこの差を挽回できる可能性は極めて低い。実際、メディアなどの世論調査では、朱氏になっても支持率は5ポイント程度の上昇にとどまった。このことは、誰よりも朱氏をはじめ、国民党の幹部たちは十分すぎるほど分かっているはずだ。だが、このまま蔡氏を「寝ていても勝てる」と言われるほど余裕を持って戦わせては、蔡氏に立法委員の選挙応援に全力を挙げさせることになる。「善戦」と言えるような選挙戦に蔡氏を引きずり込み、民進党の選挙リソースを総統選に集中させることが1つの狙いである。

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