ロシア軍はシリア空爆作戦により、ウクライナ東部介入と並んで2正面作戦を強いられた。2つの戦争を同時に戦う2正面作戦は戦術的には愚策といわれ、ロシアが2正面作戦を展開するのは、ソ連時代を通じても大戦後初めて。しかし、さすがにその重圧からか、ロシアはウクライナ東部への介入を縮小し、この数カ月戦闘はほとんど行われていない。シリア空爆も引き際が重要であり、ロシアは和平工作を開始し、出口戦略に着手しつつある。

プーチン支持率89%に

「ロシア人は走った後で考える民族」といわれる。通常は走る前に考えるが、ロシア人には、波紋や結果を考えずに行動するところがある。プーチン大統領も10月22日、世界のロシア専門家を集めた「バルダイ会議」での演説で、「50年前、私はレニングラードの路上で1つの鉄則を学んだ。闘いが避けられない時、先制攻撃することだ」と述べた。テロとの戦いについて言及したものだが、大統領は少年時代はガキ大将で、喧嘩ばかりしていた。1999年の第2次チェチェン戦争、2008年のグルジア戦争、14年のウクライナ介入、15年のシリア空爆と続く軍事作戦にも「先制攻撃の鉄則」が表れている。
 ロシア軍は地中海岸のラタキア基地に約2000人の部隊と50機の戦闘機・攻撃ヘリを配備。9月30日から始まったシリア空爆は連日行われ、スホイ34戦闘爆撃機や攻撃ヘリなど1日平均30-40機が反政府勢力や「イスラム国」(IS)の支配地区を空爆している。プーチン大統領63歳の誕生日の10月7日には、小型駆逐艦がカスピ海から26発の巡航ミサイルをシリアに向けて発射し、世界を驚かせた。空爆の規模や作戦回数は、欧米の有志連合の数倍に上るという。国土の20%にすぎなかった政府軍の支配地区も空爆の支援でやや拡大した。
 ロシア国内ではシリア空爆は支持されており、レバダセンターの調査では、72%が空爆を支持した。別の調査では、プーチン大統領の支持率はシリア空爆を受けて89.9%に上昇した。ただ、「アフガニスタン紛争の二の舞になる恐れがある」と答えた人も46%に上り、国民は介入長期化を望んでいない。ロシアの1500万人以上のイスラム教徒はスンニ派であり、イスラム教徒の9割は同胞であるスンニ派空爆に反対しているとの情報もある。
 これまでの死者は兵士1人だけで、兵舎で自殺したと発表された。空爆コストは1日400万ドル。今のところ作戦自体は淡々と推移しているが、長期化したり、犠牲者が出ると国民の厭戦気分を高めるだけに、引き際を検討せざるを得ない。

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