今回ドネツクを訪れたのは、「ドネツク人民共和国」の独立を決めた1年前の住民投票に関する取材のためだった。住民投票は正しい手順を踏んでいたか、不正や操作はなかったか、そもそも実施すべきだったのか。それを検証しようと、投票を準備した人民共和国の最高議会(ソビエト)議長ボリス・リトヴィノフ(61)にインタビューを申し込んだのである。

 リトヴィノフは、大学の教員も経験したインテリで、ソ連時代からの共産党の政治家である。ソ連崩壊後のウクライナで州議会議員などを務めていた。

ドネツク人民共和国の旗を背にしたリトヴィノフ議長(筆者撮影、以下同)

 約束の5月6日午後6時、「ドネツク人民共和国政府庁舎」、つまり旧市役所の9階にある執務室を訪ねた。その壁には、2枚の肖像画のコピーがピン留めされている。1枚はスターリンである。迎えてくれたリトヴィノフによると、スターリンはソ連救国の英雄なのだそうである。

「特に、国が危機に陥った時の指導者として、彼はレーニン以上に優れていました」

 もう1枚は、ドネツク人民共和国の元首兼首相アレクサンドル・ザハルチェンコの肖像である。「わが人民共和国の元首はスターリンに匹敵する人物です」などという。

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