歴史というのは、厄介な代物である。なぜなら、歴史には、歴史観というものが伴い、歴史観は国や地域によって異なり、同じ歴史的事象に対して違った解釈を生み出す。ときにその解釈が、まるで別世界のもののようにかけ離れ、お互いに相容れないことになる。

 台湾をめぐっては、特に歴史観の対立が鮮明に浮かび上がることが多い。なぜなら、台湾では「台湾の抗日」、「国民党の抗日」、そして「共産党の抗日」という「3つの抗日」が絡みあい、ぶつかりあっているからである。

 

中国政府の政治的な試み

 この秋、北京にある中国人民抗日戦争紀念館に「台湾抗日」の展示コーナー「台湾抗日同胞史実展」が完成した。「北京秋天」の言葉にふさわしく、PM2.5がまったく感じられないブルーの秋晴れの下で、日中戦争が勃発した盧溝橋にある紀念館に向かった。紀念館は中国の抗日戦争に関する最大の権威であり、展示内容は基本的に中国共産党の公式見解だと考えていい。

 新設された「台湾抗日」展示の説明の冒頭には、「台湾は古より中国の神聖かつ分割不能な領土である」と書かれていた。台湾政策の一環として作られた展示であると強く印象づけられる。明治維新後の日本軍が初めて台湾に足を踏み入れた 1874年の台湾出兵から日本の「侵略」が始まったという位置づけで、日清戦争によって日本が台湾を無理矢理奪い、植民地統治では軍を中心とする強権政治によって台湾の資源を収奪し、人民を抑圧し、皇民化を進めた、という筋書きになっている。

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