日米の映画産業について考えてみる

執筆者:吉崎達彦2015年12月12日

 年の瀬である。「たまには」と思って、週末に封切りしたばかりの『007/スペクター』(ソニー・ピクチャーズ)を見てきた。
 いちおうのお作法として、ネタバレのない程度に感想をかるく述べておく。前作『スカイフォール』もそうだったが、ダニエル・クレイグ主演のジェームズ・ボンドは、本人の生い立ちや職場環境(もちろんMI6のことだ)が細かく描かれていて、キャラが立体的に見える。このことが物語に奥行きを与えていて、シリーズの中でも「当たり」に属する方ではないかと思う。これに比べると、昔のショーン・コネリーはやたらと強いばっかりだったし、ロジャー・ムーアはまるで漫画の主人公のようであった。6代目ボンドのダニエル・クレイグ、なかなかいいですよ。

『007』シリーズ24作目は12月4日に公開された

 しかるに主人公がリアルになると、今度は敵役の作り方が難しくなる。今回の悪役もよくできているのだが、あいにく悪の秘密結社たる「スペクター」がどういう行動原理を持っているのかが分かりにくい。多彩な人材を擁する邪悪な組織であるらしいのだが、カネが目当てなのか、権力を欲しているのか、それとも単に私怨を晴らしたいだけなのか。
 まあ、こんなことを言うのはないものねだりである。昔の『007』シリーズは東西冷戦時代が舞台であったから、「倒すべき絶対的な悪」があった。今はそんなものは存在しない。今日の世界でいちばん怖いのは「イスラム国」ことISILであろうが、じゃあ「イスラム原理主義集団」を悪役にする映画が作れるかというと、ハリウッドとしてもそんなわけにはいかない。難しい世の中なのだ。

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