聞くところによれば、某大手全国紙の「ドン」と呼ばれる御仁は、昨年正月には当時論壇を賑わせていたトマ・ピケティの『21世紀の資本』を「徹底的に批判せよ」と檄を飛ばし、今年正月には「言ったとおり、もうピケティなどみんな忘れたろう」とうそぶいたそうだ。なるほど熱しやすく冷めやすい日本人はそうだろう。だが、「ドン」は国際論壇とはまったく無縁なところで日々を過ごしておられるらしい。

『21世紀の資本』とそこで論じられる格差問題が欧米論壇の焦点の1つになったのは日本語版が出る1年以上前、そして米国で発行される世界的な外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』の本年第1号の特集は依然「格差(inequality)」である。

 さらに昨年末の本欄(2015年12月29日「『トランプ現象』で浮き彫りになった米社会の『地殻変動』」)で詳述したように、米大統領選の前哨戦でポピュリストの不動産王ドナルド・トランプや社会主義者バーニー・サンダースが躍り出た背景にも格差社会の中で沈み込む中産階級の問題が横たわっているのは、明らかだ。「格差」は世界が、特に「脱工業化」する先進諸国が取り組むべき大きな課題なのである。ピケティが著書で訴えた問題は、国際社会の息の長いテーマとなった。

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