フィリピーナが日本人に死化粧を施す現場

執筆者:出井康博2008年4月号

 尿の臭いがツンと鼻をつく。悪臭を放つ老人の男性器を前に思わず息を飲んだ。手が震え、涙が溢れそうになってくる――。 一九九七年、フィリピン・ルソン島出身の大石ペニャフランシャさん(四二)は神奈川県の老人専門病院で介護スタッフとして働き始めた。その直後、入院患者のおむつ交換を初めて体験したときの記憶である。「仕事だとわかっていても、どうやって(性器に)触っていいのかわからなかったんです」 大石さんにとって介護の仕事は初めてのこと。介護ヘルパー養成講座などを受けた経験すらなかった。それでも初日のオリエンテーションを終えた翌日から、おむつ交換を始め他のスタッフ同様の仕事が待っていた。 男性患者の性器に恐る恐る手を伸ばし、丁寧に拭いているうち勃起してくるのがわかってギョッとした。自分に介護の仕事が本当に務まるのか。不安になって先輩の日本人スタッフに相談すると、こんな答えが返ってきた。「みんな最初は戸惑うんだから、心配しなくても大丈夫。ただし、とにかく患者さんに嫌な顔だけは見せてはダメよ」 そのひとことが、どんなに気を楽にしてくれたことだろう。そして大石さんはいま、後輩の介護ヘルパーを育成すべく教壇に立っている。

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