韓国の朴槿恵政権は2月10日、北朝鮮の4回目の核実験や事実上の長距離弾道ミサイルの発射に対し、開城工業団地の操業中止という強い対抗措置を発表した。日本の独自制裁発表と歩調を合わせた措置だった。
 これに対して、北朝鮮の祖国平和統一委員会は翌11日声明を発表し「今回の挑発的措置は北南関係の最後の命脈を断ち切る破たん宣言であり、6.15北南共同宣言に対する全面否定であり、朝鮮半島の情勢を対決と戦争の最極点に追い込む危険極まりない宣戦布告である」と韓国側を非難した。この上で(1)開城工業地区を閉鎖し、軍事統制区域に宣布(2)すべての韓国側人員を2月11日午後5時までに追放(3)開城工業団地内の韓国側のすべての資産を全面凍結、凍結設備などは開城市人民委員会が管理(4)南北間の軍通信と板門店連絡ルートを閉鎖(5)北朝鮮側労働者の全員を撤収――という強い対抗措置を発表した。韓国側が工業団地の操業を中止すれば、北朝鮮側が強い姿勢に出ることは十分に予測されたことであった。

開城工業団地「閉鎖」の意味するもの

 開城工業団地は金大中(キム・デジュン)政権時代の2000年に金正日総書記と、韓国の現代グループが合意し、2004年から操業を開始した南北経済協力のシンボルだった。昨年11月段階で、韓国の124企業が操業し、北朝鮮労働者5万4763人、韓国側労働者803人が就労している。昨年は1月から11月までの生産額が5億1549万ドルを記録、年間生産額が初めて5億ドルを超えた。
 韓国側から原材料を持ち込み、安い北朝鮮の労働力を活用して加工製品を生産して韓国へ搬出する方式で、2005年からの累積生産額は昨年11月末段階で約31億8523万ドルに達した。進出企業の内訳では繊維が58%、機械金属が19%、電気電子が7%で、韓国内の高い賃金ではもう採算が見込めない中小企業が、北朝鮮の安い労働力で生き残りを図っていた。韓国側の投資は公共投資が4577億ウォン、民間が5613億ウォンで計1兆190億ウォン(約1000億円)と1兆ウォンを超えている。
 北朝鮮にとっても貴重な外貨獲得の場であった。韓国貿易協会によると、昨年の韓国と北朝鮮の南北交易は北朝鮮の輸入が12億6128万ドル、北朝鮮の輸出が14億5222万ドルで貿易規模では27億1349万ドルで、このほとんどが開城工場団地を通じた交易だ。2014年の南北交易額は23億4312万ドルだった。韓国貿易投資振興公社(KOTRA)によると、2014年の北朝鮮の南北交易を除く貿易総額は76億1000万ドルだったが、このうち中朝貿易が68億6000万ドルで全体の90.1%を占めた。2014年基準で北朝鮮の対外交易をみると、全体の69.9%が中朝貿易であり、南北貿易は23.3%でそのほとんどは開城工業団地を通じた交易だった。2015年は中朝貿易がやや減少し、開城工業団地の交易がやや増加したことを考えると、開城工業団地の閉鎖で、北朝鮮は国家全体の貿易の約4分の1を失うことになる。
 韓国が開城工業団地で北朝鮮の労働者に支払っている賃金や各種使用料などを合わせると年間約1億ドルを超えているとみられている。韓国政府は、開城工業団地での北朝鮮のこれまでの現金収入は延べで6160億ウォン(約580億円-590億円)、年間で1320億ウォン(約126億円-130億円)と見ており、北朝鮮は大きな外貨獲得の手段を失ったことになる。

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