“好事魔多し”とはまさにこのことだろう。

 昨年12月以降、当初困難とされていた老朽原発の高浜原子力発電所(福井県)1、2号機の安全審査「合格」に始まり、福井地方裁判所における高浜3、4号機の再稼働差し止め訴訟での勝訴と、それに続く両機の再稼働実現など、朗報続きだった関西電力が見事に足元を掬われた。3月9日に大津地方裁判所が下した高浜3、4号機の運転を差し止める仮処分決定は、同社首脳陣が描いていた業績回復のシナリオを根底から覆した。5年前の東京電力福島第1原子力発電所事故(3.11)後も再稼働一本槍で巨額の投資を注ぎ込んできた関電にもはや戻る道はなく、同社関係者自身も認めてきた「原発と心中」がいよいよ現実味を帯びてきている。

 

「業界崩壊が始まった」

「2月末の4号機のトラブルも全国のお茶の間にテレビ中継され、前代未聞の恥さらしだった。会社の病は相当深いところにあるのかもしれない」

 大津地裁の仮処分決定が下りた直後、ある関電社員が自嘲気味にこうつぶやいた。

 自他共に認める官僚体質で確固としたヒエラルキー構造の電力会社で、こんなコメントが社員から出るのは珍しい。貧すれば鈍す。かつて「鉄の団結」を誇った関電のエリート軍団の士気低下も著しい。5年前に805万円だった1人あたりの年間平均給与は、いまや627万円にレベルダウン。ボーナスゼロも3年連続となっている。高浜や大飯、美浜など一連の原発再稼働の作業や審査対策などで徹夜も辞さなかった背水の布陣も、「体力面だけでなく、精神面でもそろそろ限界」(関電関係者)といわれており、そんなギリギリの状況で下った大津地裁の仮処分だけに、衝撃も一段と大きかったといえる。

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