日本帰りの「黒い法王」が目指すアジア布教

執筆者:シルヴィオ・ピエールサンティ2008年4月号

[ローマ発]流暢な日本語を話す「東京育ち」の神父が、カトリック修道会のなかでもひときわ大きな影響力をもつ「イエズス会」の第三十代総長(法衣の色から「黒い法王」とも呼ばれる)に選出された。一月十九日、世界中からローマに集まった二百十七人の代表による決選投票で選出されたアドルフォ・ニコラス神父(七一)は、スペイン人だが、一九六〇年に地元大学を卒業した後、六四年に日本に渡り、六八年には上智大学神学部も卒業して、以来、教授として二〇〇三年まで上智大学で教鞭を執っていた。 アジアに通じた総長の選出は、アジアへの布教活動を活発化させるカトリック教会の意欲の現れと解釈できる。バチカンにとって、イスラム教が急伸長するアジアへの伝道は大きな課題であるからだ。 日本では、キリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルの名と共に知られるイエズス会は、イグナチウス・ロヨラがザビエルらと結成し、一五四〇年にローマ法王の認可を受けた最大規模の修道会で、全世界に二万人の会員を持つ。米ジョージタウン大学や日本の上智大学、香港の華仁書院、台湾の輔仁大学、フィリピンのアテネオ・デ・マニラ大学、インドのロヨラ大学、韓国の西江大学など世界で百十の教育機関を経営するイエズス会は、カトリック教会の「頭脳」といわれ、その進歩的な思想は、しばしばバチカン内の超保守派との間に摩擦を生んできた。

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