岸田文雄外務大臣が、4月29日から中国を訪問する。国際会議出席のためではなく、2国間訪問としての外相訪中は、安倍晋三首相の再登板後初めて。2011年11月以来約4年半ぶりで、日中関係の転機となりそうだ。しかし、大手マスコミは、習近平国家主席との会談がセットされるかに焦点を絞るという、あい変わらずのピンボケぶりを発揮している。どういった力学が働いて会談相手が決まるのかということを理解していないので、中国側の一挙手一投足に振り回されてしまうわけだ。

「国力」が外交の「格」を決める

 外交の世界で重要なのは「格」である。外交当局のトップである外相が他国を訪問した際に、同格である相手国の外相と会談するのは外交儀礼上、当然であるが、格上である大統領や首相との会談が設定されるかどうかは、受け入れ国の判断に委ねられることとなる。判断に大きな影響を与えるのが、訪問する側の「国力」だ。
 世界一の大国であるアメリカの国務長官(余談だが中国語では「国務卿」)は、その国力を背景に、どこの国を訪問しても政治リーダーとしての大統領や首相に会うことができる。今年1月、北朝鮮のいわゆる水爆実験と台湾総統選挙後に中国を訪問したケリー国務長官は、同格の王毅外交部長、楊潔篪国務委員だけでなく、習近平国家主席とも会談した。アメリカの覇権に対して挑戦する姿勢を露にしている習近平政権といえども、現に覇権国であるアメリカの外交トップに対して、会談を設定しないという選択肢はとりえないということだ。
 アメリカには及ばないまでも、大きな国力を誇る世界の主要国の外相に対して、中国はどのように対応しているのだろうか。習近平は、2015年2月に北京で開催された第13回インド、ロシア、中国3カ国外相会議のために訪中したインドのスワラージ外相、ロシアのラブロフ外相とそれぞれ会談、2014年2月に訪中したフランスのファビウス外相とも会談している。
 いずれもG20のメンバーであるインド、ロシア、フランスと日本の国力を一概に比較することは難しいとはいえ、日本が圧倒的に劣っているとは思えない。こうしたことから考えると、日本の外相が訪中した際に、同格の外交部長、国務委員だけでなく、格上の国家主席と会談することは、ごくごく自然なことだといえるだろう。中国側は今までにも、江沢民国家主席が、2000年8月に河野洋平外相、2002年9月に川口順子外相の訪中の際に会談している。

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