4月30日にイラクの首都バグダードで起きた議会への群衆の乱入事件は、膠着状態に陥ったイラクの政治を変えるのだろうか。

 

「グリーン・ゾーン」の別世界

 イラクの議会は、バグダード中心部の、チグリス河が大きく湾曲した箇所の西岸に位置する「グリーン・ゾーン」と呼ばれる、壁で囲われた地域にある。もともとはサダム・フセイン政権時代にバアス党政権の支配の拠点として要塞化された地区で、党や軍の施設や幹部の住居が集まっていた。フセイン政権時代には豪華な大統領宮殿も造営された。米軍はここを接収して占領統治の拠点とした。米軍統治下ではグリーン・ゾーンの外からの反米ゲリラによるロケット砲などによる攻撃、あるいは自爆テロによる突入の試みなどが頻発した。米軍の撤退・イラク政府の自立化に伴い、2009年はじめには米軍の管理下を離れた。

 その後のグリーン・ゾーンは、新生イラク政治の権力の中枢であるとともに、ばら撒きによる集票と合従連衡・野合に明け暮れるイラクの議会政治が立て籠る悪名高い場所となった。

 今回はグリーン・ゾーンの壁を群衆が解体して突破し、議会議場堂へ乱入している。群衆はほぼ丸腰で、組織的な動員はされているものの「平和的」なデモの延長線上であり、爆弾を積んだトラックの突入などではない。

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