[台北発]「馬」が逃げている。三月二十二日の台湾総統選を前に、野党国民党の馬英九候補は、与党民進党の謝長廷候補の追い上げを受けながらもリードを保ったまま、最終コーナーを回った。謝氏は陳水扁政権下の八年間で陳氏に反発して離反した勢力の再結集に全力を挙げる一方で、馬氏の米国グリーンカード(永住権)の取得歴を執拗に追及し、一月の立法院選で民進党が歴史的大敗を喫した頃から比べ、確実に差を詰めた。だが、馬氏側近は断言する。「二〇〇四年の総統選での陳水扁銃撃事件に匹敵する大事件が起きない限り、馬英九は逃げ切れる」 対中関係の改善や貿易拡大を掲げた馬氏の勝利なら、国民党は民進党に二〇〇〇年と〇四年の総統選で苦杯をなめた末、八年ぶりの政権奪還となる。台湾の主体性を強調する民進党は「自分は中国人ではなく、台湾人である」と認識する層が社会の主流になるという有利な状況を生かせず、野党暮らしに転落することになる。一方、謝氏が逆転勝利すれば「一辺一国=台湾と中国は別々の国」との方向が固まり、国民党は大幅な路線修正が不可避になるだろう。 総統の座に近づく馬氏はどういう人物なのか。馬氏の父親の馬鶴凌氏は国民党の幹部で、馬一家は国共内戦に敗れた国民党と一緒に台湾に逃げ込んだ。五人きょうだいで唯一の男である馬氏は両親から党への忠誠を叩き込まれたという。台湾大学法学部を卒業し、米ハーバード大で法学博士号を取得。米国では国民党から指示を受けて同朋留学生を監視する「職業学生」だったとの指摘もある。台湾に戻って蒋経国総統の英語通訳に抜擢され、法務大臣を経て、一九九八年に台北市長に当選。〇五年に党主席。よどみなく出世街道を邁進した外省人エリートの人生だ。

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