金正恩氏の総括報告でもう1つ注目されたのは経済路線であった。金正恩時代の経済状況は低率ながらもプラス成長を続けてきたとみられている。農業における分組の小規模化、圃田担当責任制、企業の独立採算制を強めた「社会主義企業責任管理制」など市場経済的な要素を導入し、労働者の生産意欲を刺激する方法が取られてきた。このため、総括報告で、金正恩氏がこれまで進めてきた「社会主義経済管理方法の改善」という枠内での経済改革をまとめるような方向性が示されるのではないかという期待があった。しかし、報告では既存の動員型の経済体制が強調され、改革的な方向性も部分的に示され、結果的には中途半端な内容となった。 
 金正恩氏は「わが国は政治・軍事強国の地位に堂々と上り詰めたが、経済部門はまだ相応の高みに達することができずにいる」と政治、軍事両部門に対して経済発展が立ち遅れていることを認めた上で「経済強国」建設を訴えた。金正恩氏は「ある部門は嘆かわしいほど遅れている」と実情を認めた。

数値目標なき「経済発展5カ年戦略」

 この上で、金正恩氏は2016年から2020年までの「国家経済発展5カ年戦略」の徹底した遂行を訴えた。
 北朝鮮の過去の党大会では、1961年の第4回党大会で「7カ年計画」、1970年の第5回党大会では「人民経済発展6カ年計画」、1980年の第6回党大会では「80年代の10大目標」などの経済計画や経済目標が発表された。
 しかし、現在の北朝鮮経済はプラス成長とはいえ、それは市場経済的な要因の導入でかろうじて実現しているものであり、国際的な経済制裁下では長期経済計画の発表は困難とみられていた。にもかかわらず、金正恩氏は「国家経済発展5カ年戦略」を発表したわけだが、これは「戦略」であり「計画」ではない。金正恩氏は「5カ年戦略」の大まかな目標には言及したが、数値目標や具体的な達成レベルについては言及できなかった。金正恩氏は「5カ年戦略」の目標について「人民経済全般を活性化させ、経済部門間の均衡を保障し、国の経済を持続的に発展させることのできる土台を築くことである」としたに過ぎない。本質的な意味では「5カ年戦略」はあくまで「戦略」目標であり「計画」とはいえない。
 金正恩氏が「5カ年戦略」で最も強調したのはエネルギー問題の解決であった。ここでは水力発電を主体に火力発電を合理的に配合し、原子力発電の比重を高めるとした。
 その次に強調したのは食糧問題の解決であった。「食糧の自給自足を実現すべきである」と訴え「農業を世界水準に押し上げるべきである」とした。
 金正恩氏はその他にも電力ともに経済の先行4部門とされる石炭工業、金属工業、鉄道運輸をはじめ、機械工業、化学工業、建設、農業、水産業、畜産、果樹などの各部門について「転換すべきである」「正常化すべきである」「(目標を)占領すべきである」と「~すべきである」を連呼した。
 しかし、核・ミサイル開発に対する経済制裁下にある北朝鮮が経済建設を推進することは容易ではない。ここでも「自力・自彊」が強調されたが、テコのない経済発展は困難だ。

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