実につつましい雑誌の広告

執筆者:成毛眞2016年6月2日

 あまり表に出ない分野で、技術の進歩が加速している。今話題の人工知能や自動車の自動運転などよりも、もっと原理的な、専門家しか知らないような世界の話である。こういった世界のことを語れる人はあまりいないので、ネットに出てくる情報には限りがある。そこで、雑誌を定期購読することにした。
 読み始めたのはメカニカルを中心に扱う専門誌『日経ものづくり』、土木と建築をカバーする『日経コンストラクション』、そして『週刊東洋経済』と『週刊ダイヤモンド』である。
 書店で買わずに定期購読にしたのは、買い忘れをしないためでもあるし、案外、安いからである。これらの雑誌は定期購読をすると値引きされるので、1冊あたりの価格がぐんと下がる。たとえば『日経ものづくり』は、1冊で買うと1800円だが、3年購読すると36冊で3万3600円になり、1冊あたり930円ちょっと。ほぼ半額になる。これなら、2回に1回、興味のない特集が組まれていたとしても元はとれるというものだ。新しい号が出れば必ず家に届くというのも、慣れてくるとありがたい仕組みである。
 そうやって雑誌を以前よりも読むようになって、広告もじっくりと眺めるようになった。というのも、『日経ものづくり』と『日経コンストラクション』は記事だけでなく出ている広告もまた、専門的だからだ。こういう企業があったのか、この企業は今、この業界のエンジニアにこれを訴えたいのかと、知らなかったものが見えてくるのである。
 特に面白いのは、ページの3分の1ほどを占める細長い広告だ。記事を読んでいると必ず目に入る場所に配置されている。1ページものに比べると掲載料金が高くないので、ここでしか見られないような比較的小さな企業も出稿していることが多く、新たな発見がある。表4と呼ばれる裏表紙部分にも注目している。この場所は雑誌広告の中でもかなり出稿料金が高いところで、そこを定点観測すると、時代の趨勢が垣間見えるからだ。
 一方で、ネットの広告である。この世にはバナー広告をクリックしたことのある人が何人くらいいるだろうか。バナー広告が誕生した頃なら、面白がって、または間違って、クリックしたという人もいたかもしれない。しかし今や、どのページを見てもバナー広告があり、しかもその広告が、さっきショッピングサイトで買った商品の類似品や、ちょっと調べただけの商品や企業の広告だらけになるのが日常化すると、人は無意識のうちにそこにある広告をスルーするようになる。ああ、バナーが出ているなと気付いても、その中身を読もうとはしない。私のような「逆張り人間」の場合、あまり広告に追いかけられると、もうそこに出ている商品は買わないと固く誓うこともある。

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