経費全額負担か、さもなくば全面撤退か――。アメリカ大統領選挙で共和党候補の指名を確実にしたドナルド・トランプ氏(69)が、この3月以降、ことあるごとに訴えてきた「在外駐留米軍」に関する発言である。現在の日米安保体制を根本から揺るがす「放言」ともいうべきものだが、トランプ氏に大統領就任の目が全くないわけではない現在、決して看過することはできない。そこでトランプ「公約」の実現可能性も含め、検討してみたい。

日本が負担している在日米軍経費の実態

 在日米軍は沖縄をはじめ横須賀、厚木(いずれも神奈川県)、三沢(青森県)、佐世保(長崎県)、岩国(山口県)などに基地を持ち、戦闘機や哨戒機といった航空機、艦艇などを配備。陸海空軍と海兵隊を合わせた兵数の定員は約3万6000人だ。
この在日米軍に防衛省が支払っている経費は、4種類ある。基地内で働く日本人雇用者の人件費や基地の光熱費など、いわゆる「思いやり予算」が1899億円(2015年度予算。以下同)。基地周辺住民への騒音対策や漁業補償などに使用する「周辺対策費」が1826億円。1996年のSACO(沖縄に関する特別行動委員会)合意に基づき、沖縄県民の負担を軽減するために行う米軍の整理、統合、縮小に関わる「SACO関連費」が46億円。そして、厚木や嘉手納から米航空部隊を岩国基地に移転するなどの米軍再編事業のうち地元の負担軽減に充てる「米軍再編関連経費」が1426億円である。
 防衛省だけで5197億円を支払っているが、これは日米安保体制を円滑かつ効果的に運用するため、日本が自主的に支払っているものである。
 これに加えて防衛省以外の他省庁からの予算もある。基地のある市区町村に支払う「基地交付金・調整交付金」が388億円(2014年度予算)。基地や演習場などの土地の借地料として「提供普通財産借上試算」が1665億円(2014年度試算)である。因みにこの借地料が条約上の義務的経費である。
 以上を合計すると約7250億円を日本政府は在日米軍に支払っているように見えるが、この費用の支払い先をよく見る必要がある。「日本人従業者」「電力・ガス・水道会社」「周辺住民」「土木建築業者」「周辺自治体」「土地保有者」など、支払先はほとんど日本国民なのである。つまり、日本政府は、「税金をきちっと国民に還元している上に、米国の抑止力をも得ている」といっても過言ではないのだ。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。