5月20日、台湾で「反日親中」の馬英九氏から「親日米」の蔡英文氏に総統が交代したことで、中台関係は今後どうなるのか。蔡英文氏の総統就任演説とそれに対する中国共産党の反応から読み解いてみたい。
 中国で台湾政策を取り仕切る国務院台湾事務弁公室は、蔡英文氏の総統就任当日、談話を発表した。その中で注目したいのが、「台湾当局の新領導人(新指導者)」とは述べながら「蔡英文」という名前を1度も出さずに就任演説を論評した中国の態度だ。自分たちの意に沿わない人間は、存在自体をも無視したいという中国共産党の願望が露呈した格好だ。


 名前を出さなかったのは、毎日午後7時に国営中国中央電視台(CCTV)が放送する「新聞聯播」で、この談話の全文がアナウンサーによって読み上げられたことも関係しているだろう。インターネット検閲が実施されている中国では、テレビを通じた情報入手に別段の重みがある。中国で最も権威があるとされるニュース番組を通じて、中国全土に「反中」人士の名前が流布することを共産党は避けたかったのだろうと考えられる。
 就任演説の最大の論点は、中国が存在を主張するいわゆる「92年コンセンサス」だった。中国と台湾は互いに国家承認していないので、国交関係や大使館は存在せず、政府当局が直接交渉を行わないというのが原則だ。そうした中で、双方の意思疎通の為に形式的には民間機関として設立されたのが、海峡両岸関係協会(中国)と海峡交流基金会(台湾)だった。両機関の初めてのトップ会談が1992年に香港で開催されたのだが、中国側はその際に「1つの中国」原則で双方が合意したと主張しているのだ。
 蔡英文総統は就任演説で、1992年に双方の窓口機関が会談したという歴史的事実を尊重すると述べた。会談では若干の共通認識に達したとし、それは「求同存異」、すなわち共通点を探し出し相違点は留め置くべきだとした。蔡英文総統の中台関係に対する態度はこの四字熟語によく表れているといえるだろう。台湾海峡の安定という中台双方が求める共通点を探りながら、中台で異なった認識を持つ国家の枠組みの問題(「1つの中国」なのか「2つの中国」なのか「1つの中国、1つの台湾」なのか)については相違点として放置すべきという主張だ。

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