三カ月のエジプト滞在を終えて帰国早々、今度はインドネシアのバリ島に赴いた。二億人という世界最大のイスラーム教人口を抱えるインドネシアの中に取り残されたヒンドゥー教徒の島である。空港からウブドに向かう間の車上で、木々のみずみずしい緑色が目に飛び込み、あらゆるところから神々や動物の石像が顔を覗かせる。中東の乾ききった大地の、「偶像」が排された世界から離れて、より馴染み深い土地に帰ってきたことを実感する。 しかし、バリ島はイスラーム過激派ジェマー・イスラミヤによるとみられるテロが二〇〇二年十月、〇五年十月に起きていることからもわかるように、イスラーム世界と異教徒世界の「前線」としてイスラーム主義者から認知される場所でもある。 バリ島ではニューヨークのアジア協会が主催するウィリアムズバーグ会議に出席した。今年は「東アジア・東南アジアのイスラーム」が筆頭の課題として挙げられていたためである。アジア協会の議長でこの会合での議論を主導するリチャード・ホルブルック元米国連大使や、アン=マリー・スローター米プリンストン大学ウッドローウィルソン公共国際問題大学院院長といった、民主党政権が実現すれば影響力を持ちそうな面々が、このテーマでいったい何をどのように議論するのか、もっぱら観察していた。

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